井上嘉浩さんの手紙に基づいて、詩を掲載しています。本人に許可を得ています)。その手紙の一部を紹介します。
「合掌」
夜明け前ふと気が付くと
月影がわずかに瞬いている
小さなか弱き光でも美しく
埋もれた悲しみに寄り添う気高さに
静かに手を合わせます。
2018.6.29. 井上嘉浩
「浄土の花」
夢に咲くウドウンバラのように
生まれることもなく散ることもなく
浄土の花は穢土の直中に
誰にも気付かれることもなく
命の瞳に咲くいのち
2018.5.18. 井上嘉浩
「いのちの大海」
何処にも拠りどころをつくることなく
宙ぶらりんに己を投げ出せば
そこは何もない空っぽではなく
人間の想像を遥かに越えた
悲しみと喜びが平等に瞬く
生死を織りなすいのちの大海。
2018.5.6. 井上嘉浩
「ビート」
何も無い
何も見えない
一人でも
波打ついのち
ビートを刻む
2018.4.27. 嘉浩
「春風」
風そよぐ 海のかおりをただよわせ
風にたくすよ 幸せであれ!
2018.4.19. 井上嘉浩
「冬の息」
息白く
差し込む朝日
映し出す
冬のあぜ道
探した未来。
2017.12.5. 井上嘉浩
「小雪」
牢獄に
しみいる寒さ
罪を知る
生きていてこそ
ふるえる命。
2017.11.22. 井上嘉浩
「月影」
月影に
照らされ浮かぶ
ものはみな
気づかぬままに
見守られてる。
2017.11.8. 井上嘉浩
「雨音」
秋深し
雨の滴が
響く闇
そこには何も
無いかのように。
2017.10.17. 井上嘉浩
「赤トンボ」 「もみじ」
赤とんぼ 音も無く
からくれないに 散りゆくもみじ
野を染めて 野に伏せる
命をつなぐ 命といのち
おもむくままに。 重ねるように。
2017.10.10.井上嘉浩 2017.10、13.
「時代」 「中秋」
鳥渡る 秋の空
空には何も 罪人さえも
壁は無い 照らし出す
作るは人の 何も求めず
思わくばかり。 微笑みながら。
2017.10.1. 井上嘉浩 2017.10.4.
「彼岸花」
彼岸花
いろなき風に
身をまかせ
散りゆくままに
空を彩る。
2017.9.20.井上嘉浩
「鈴」
晩秋の
夜を奏でる
鈴時雨
愛にふるえる
妙なるいのち。
2017.9.13.井上嘉浩
「秋空」
透き通る
果てなき空に
とび込めば
何もなくても
やさしくなれる。
2017.9.4.井上嘉浩
「ちはやふる」
突き抜ける
渦まく空は
ちはやふる
無形のままに
いのちふるわす。
2017.8.28.井上嘉浩
「無心」
降り注ぐ
牢の中にも
蝉しぐれ
無心のままに
いのち震わせ。
2017.8.22. 井上嘉浩
「 終戦」
悲しみに
あふれる願い
時を超え
空の大地に
平和を祈る。
2017.8.15. 井上嘉浩
「鼓動」
夜の海辺に打ち寄せる
波音だけが消えることなく
どこからともなく聞こえてくる
いつのまにかに忘れてしまった
はてなき光の鼓動のように。
2017.8.8. 井上嘉浩
「真夜中の蝉時雨」
浄闇に染み入る蝉時雨
無心の愛に震える浄土
それがどれほど儚くとも
こだわりもなく恐れることもなく
おもむくままに鳴き続ける
2017.7.24. 井上嘉浩
「七夕の詩」
夜空に瞬く星々の下
悲しみにあふれる願いは
命の弦を爪弾きながら
時空を超えて響き合う
誰に知られることもなく。
2017.7.3.井上嘉浩
「紫陽花」
紫陽花に滴るしずく
虹にきらめく儚い光
無限の可能性の中から
今、一瞬つながり合う
自然の摂理を密かに語る。
2017.6.25. 井上嘉浩
「群青」
雲間に広がる群青の空
不思議と心が明るくなる
空がそこにあればそれでいい。
微かに聞こえる鳥たちのさえずり
時代の悲しみとは関わりなく
まっさらな愛を育み合っている。
2017.6.4. 井上嘉浩
「瑠璃」
誰もいない海辺に風が吹いている
瑠璃に瞬く海の彼方から
届けられる尽きせぬ願いのように
生と死の喜びと悲しみが深いほど
いのちの青空は広くてやさしい。
2017.5.12. 井上嘉浩
「おぼろ月」
おぼろ月夜に咲く花
闇がひんやり深まるほど
玄妙にはなやかに美しい
散る花びらのさびしさとて
不思議と希望の灯になるように。
2017.4.5. 井上嘉浩
「自問」
格子からわずかに吹き込む
風のやさしい香りに春の訪れを
一人静かにじっとかみしめる
してきたこと しなかったこと
逃げてきたこと 見過ごしてきたこと
もれなくいのちと向き合いながら。
2017.3.6. 井上嘉浩
「自覚」
余寒の青空に舞う嵐
牢獄に海鳴りを響かせ
罪人を孤独に追い立てる
冷厳さに隠された眼差しと
向き合い自己を知り抜くため。
2017.2.13. 井上嘉浩
「聞こえてくる」
凍てつく夜空のかすかな温もり
月影から流れる透明な光の滴
どこにも何もないはずなのに
不思議とやさしさが聞こえてくる
誰のためでもなく何のためでもなく。
2017.1.18 井上嘉浩
「ひとつ」
いのちの瞳は透明な水晶のよう
何ものにも染まることがないからこそ
喜びも悲しみも何もかも映し出す
きっとそこに本当の存在するものは
何一つ見捨てることのないひとつの願い。
2017.1.6. 井上嘉浩
「メリークリスマス」
夜空に愛が澄み渡り
流星の光芒がかけぬけ
獄中の僅かな隙間から
罪人の瞳にも届けられる
いのちの祈りはメリークリスマス。
2016.12.21.井上嘉浩
「溪谷」
幽玄の溪谷から流れつづける
せせらぐ輝きは虹のいのち
見ることも聞くこともできなくとも
生きとし生ける命をふるわせ貫く
無償の愛との出会いを待つように。
2016.12.2. 井上嘉浩
「後悔」
おかしなことを見ぬふりしたために
考えることなく組織に流されていき
罪に罪を重ねてしまう愚かな罪人
人として自然な心の声を大切にして
怖ろしくても流されず立ち上がるべきでした。
2016.11.21. 井上嘉浩
「コスモスの唄」
晩秋の野に戯れるコスモス
寒さにめげず凛と花咲く
自然が織り成す営みの数々が
何一つ欠けても生まれなかった
いのちの花がさりげなくが唄っている。
2016.11.6 井上嘉浩
「横超」
獄中の格子を横超する
月影は何も語らぬまま
差別なく包み込んでいく
悲しみも喜びもそのまま
はてなき光に消し去るように。
2016.10.18. 井上嘉浩
「秋風」
どこからともなく訪れる
色なき風に心を澄ます
空を翔け大地をめぐり
いのちをふるわせながら
どこへともなく去っていく。
2016.10.10. 井上嘉浩
「彼岸の空」
獄中の水たまりに浮かぶ
青空はさえぎるものなく
平等に罪人を映し出す
何ものに染まることなく
ありのままをありのままに。
2016.9.24. 井上嘉浩
「十五夜」
雲間に差し込む月影に
いのちを震わす秋の虫
悲しく切ないほどに美しく
奏でるままに消えていく
何事もなかったかのように。
2016.9.15. 井上嘉浩
「かよわき声」
秋の夜を静かに奏でる
ちちろむしのシンフォニー
どれほど小さくかよわき声でも
無限のいのちと呼応して
たちあらわれる愛のうた。
(ちちろむし=コオロギの別名)
2016.9.5. 井上嘉浩
「アサガオ」
ふと気が付けば咲いている
健気で可憐なアサガオ
すぐにしぼんでしまうけど
瞳に瞬く花のいのちは
無限にひとしく美しい。
2016.8.14. 井上嘉浩
「蝉の詩」
真夏の夜の蝉時雨
命を尽くして鳴いている
無限にふるえるはかない愛
何一つ姿は見えなくとも
静かにしみるいのちの詩。
2016.8.1. 井上嘉浩
「内在」
一輪の花に心を通わせていくと
大空が広がっていくかのよう
何も差別せずに包み込んでいく
内在に満ちる愛に気付くほど
罪の悲しみは深まるばかり。
2016.7.15. 井上嘉浩
「七夕の花」
大空が光と闇をのみほすように
悲しみも切なさも美しさも醜さも
もれなく受け入れていく心にそっと
自ずと生まれる愛は虹の架け橋となり
一人一人のいのちに花を咲かせる。
2016.7.4. 井上嘉浩
「苔の花」
岩根を穿つ雨の滴
ひっそり咲く苔の花。
生まれるものは何もなくとも
姿を変えて流れゆく
生死一如のごとくに。
2016.6.14. 井上嘉浩
「聖火 (ツル)」
微笑む聖火の心には
シャンボ玉があふれるように
一輪一輪いのちが瞬く。
誰の手に渡されようとも
無心に真心こめて。
2016.5.28.井上嘉浩
「心音」
揺れ動く心は寄せては引く
波音のようにとどまることなく
何もかも押し流していく。
よく見ればそこには何も無く
語られる愛が脈打つ。
2016.5.11. 井上嘉浩
「大地の祈り」
青空に映える若葉の命
丘を吹き抜けるのどかな風
美しくも畏ろしい自然の摂理
どうすることもできぬまま
ただただ祈るばかりです。
2016.4.21 井上嘉浩
「さくらのままに」
桜咲くさくらのままに
美しくはかなく切なく
埋もれた心を揺さぶりながら
音もたてず散っていく
何もなかったかのように。
2016.4.4. 井上嘉浩
「雨と滴」
無言の闇にしとしと降る
冷たい雨に重なる滴。
罪の痛みは尽きることなく
底知れぬ悲しみのつらなりに
小刻みにふるえるいのち。
2016.3.14. 井上嘉浩
「うめのこころ」
冬の大地に根を伸ばし
命を守り息吹はじめる
気高くやさしい梅の香り。
語られる言葉はなくても
あなたの心が身にしみる。
2016.2.23.井上嘉浩
「雪の声」
雪降る夜の静かさ
心の襞(ひだ)を浮き立たせ
見過ごしてきたものが
真実に生きているかを
さりげなく問いかける。
2016.2.1.井上嘉浩
「炭火」
獄中に舞い落ちる粉雪
窓に触れては消えてゆく
はかない罪人の命のように。
でもそれでもいのちそのものは
炭の残り火にように温かい。
2016.1.18.井上嘉浩
「 初空」
いのちの青空は透き通り
何もどこにも見えなくとも
もれなく命をつらぬき
誰もが誰かに愛され
今、共に生かされいる。
2016.1.1.井上嘉浩
「聖夜の灯」
音もなく降る細雪
大地を白銀に染める。
街角のクリスマスキャンドル
うつむく瞳に照り返し
さりげなく愛を灯す。
2015.12.20. 井上嘉浩
「境界線」
寂びれた港から眺める
冬空と海の境界線
闇の帳に包まれようと
淡い夕日のかなたから
響く声にいのちを澄ます。
2015.12.6 井上嘉浩
「虹の薔薇」
晩秋のやわらかな光の中
凜と花咲く虹の薔薇
誰に知られることもなく
愛つないでを消えていく
何一つこだわることもなく。
2015.11.23 井上嘉浩
「故郷」
蕩々と流れる川のせせらぎ
瞼に映るなつかしい大空
何もかも遠くに離れてしまったけど
ただそこに故郷があるだけで
誰もがどこからでも歩みはじめる。
2015.11.12. 井上嘉浩
「月の瞳」
瞳に浮かぶお月様
そこには何一つ無くても
満ち欠けを繰り返し
皓々と呼びかける
命の弦をふるわせながら。
2015.11.4. 井上嘉浩
「そのままで」
一雨ごとに深まるわびしさ
舞い散る紅葉のかおり
はかなくてもそのままで美しい
牢獄の中でさえ耳をすませば
聞こえてくる鳥たちの命のうた。
2015.10.18. 井上嘉浩
「 アカツメクサ」
池の辺にひっそりたたずみ
のどかなさざ波のメロデイーに
照り映えるアカツメクサ
何気ない自然な営みに
流れるさりげないやさしさ。
2015.10.2. 井上嘉浩
「月の花」
月下に揺らめく曼珠沙華
誰の目にもとまることなく
花咲くすがたなきいのちかな
何ものにも染まることなく
今をただ慈しみながら。
2015.9.28. 井上嘉浩
「平和」
平和って何だろう? きっとそれは
誰もがもれなく同じいのちに
生かされていると感じるだけで
やさしくなれる自然な心
せめてそんな愛を守りたい。
2015.9.19 井上嘉浩
「秋のシンフォニー」
秋の長夜に降る雨音
静かに悲しみを奏でる。
かすかに聞こえる鈴虫の鳴き声
雨に打たれてふるえる命
美しき愛のシンフォニー。
2015.9,7. 井上嘉浩
「 夏草」
どこからともなく吹く風
光の粒にそよぐ夏草。
名も無き池に己を映し
静かに揺らめく波紋
秘めた想いを語り出す。
2015.8.19. 井上嘉浩
「流浪人」
それはどこにも見つからない
あてもなく流浪する
夜の海に揺蕩う小舟
でもそれでも舵を握り
償えない罪を懐き続ける。
2015.8.10 井上嘉浩
「無の花」
夏空に木霊する花火
心の模様を映し出す
鮮やかな幻夢の舞。
何もかも消え去る瞬間
微笑む無の花たち。
2015.7.21 井上嘉浩
「瞳の心」
夜の帳に映る星屑
闇が深まるほど美しく
静かな祈りの願いは
いのちの瞳の中で輝き
心と心を通わせ合う。
2015.7.3 井上嘉浩
「梅雨の薔薇」
梅雨に佇む赤い薔薇
芳ばしい香りは気高く
孤独を懐に真心
美しき姿にまとう刺
愛の厳しさを物語る。
2015.6.21 井上嘉浩
「純情」
微笑み合う二輪の紫陽花
交わりゆずり合いながら
自らの花たちを咲かせている。
小さなてんとう虫が戯れ
秘められた純情を未来へつなぐ。
2015.6.5 井上嘉浩
「シャボン玉」
青空に浮かぶシャボン玉
くるくるめぐる虹の渦
誰もが見とれてしまうのは
忘れたものがそこにあり
パチンと消えてはっとするから。
2015.5.26 井上嘉浩
「風の便り」
さびれた夜の沈黙を破り
吹き抜けるやわらかな風
孤独な罪人にささやく
わずかな空気の流れにも
かすかに聞こえる何者かの愛。
2015.5.9. 井上嘉浩
「花水木」
新緑の風にさそわれ
咲き誇る花水木
無垢な白い花びらは
流れるままに身をゆだね
染まらず花咲く望みかな。
2015.4.28. 井上嘉浩
「花心」
静かな月光に導かれ
桜の花びらは紺碧の夜空へ
跡形もなく散りゆく。
何ごともなかったかのように
梢の若芽がほころぶ。
2015.4.12. 井上嘉浩
「微笑み」
ゆるやかな流れに映り
微笑む川辺の桜たち
揺らめきたゆきとう心かな
さえずる雲雀を見上げれば
ただ何もない空がある。
2015.3.30. 井上嘉浩
「桜の祈り」
群青の夜空に月影が満ち
咲きはじめる一輪づつの桜
生まれたばかりの精霊たち
悲しみをもれなく拾い集める
姿なき静かな祈りうた。
2015.3.24. 井上嘉浩
「菜の花」
春風にそよぐ菜の花は
いのちの祈りをささやき
黄色い小さな花達は
人知れぬ悲しみを聞き取る
こだわりもなく流れるままに。
2015.3.8 井上嘉浩
「一輪」
一輪の花に託された
散るために咲く花は
たとえ一夜の時であれ
この上なく美しく満たされる。
2015.2.24. 井上嘉浩
「梅心」
月光に照らされかおる
雪の枝に咲く梅の花
息吹く命の気高さに
犯した罪が身に迫り
獄中に一人立ち尽す。
2015.2.6. 井上嘉浩
「呼びかけ」
打ち寄せる波のように
2015.1.25. 井上嘉浩
「スミレ」
空と海がひとつにとけ合う
すみれいろのおぼろな境界
分け隔てのない愛が灯る。
世界にあふれる悲しみを
何一つ見捨てることなく
見守るいのちの誓願。
2015.1.13. 井上嘉浩
「月の鏡」
月の鏡にあふれるものは
姿なきいのちの光の雫
生きとし生ける命に流れ込む
2015.1.4. 井上嘉浩
「福寿草」
雪に咲く 幸せ願う 福寿草
黄色い花は 大地の希望。
2015.1.1. 井上嘉浩
「クリスマス」
群青の聖夜に輝く星々
いのちを見守る不思議な光
もれなくどんな姿の命であれ
やさしくそっと包み込む
何もない素敵なプレゼント。
2014.12.24. 井上嘉浩
「寒椿」
雪に花咲くカンツバキ
紅色は秘めやかな情
厳しく冷たい孤独の中
ひたむきに愛を育む
誰に届けるわけでもなく。
2014.12.18 井上嘉浩
「冬雲」
凍て空に生まれる雲は
夕焼けを荘厳しながら
跡形も無く消えてゆく。
澄み切った瞳に瞬く
オリオン座を迎えるように。
2014.12.8 井上嘉浩
「影法師」
一雨ごとに寒さがつのり
無限の鏡に映るものみな
跡形もなく消えてゆく
戯れる影法師のように。
2014.12.2 井上嘉浩
「寒林」
寒林に降る夜の雨
2014.11.26. 井上嘉浩
「紅葉」
いのちの大河へ旅立つ
未来に願いを届けるため。
「クロバー」
小さな四葉のクロバー
ありふれた日々に瞬く
出会いという名の幸せ
犯した罪が身にしみます。
「コスモス」
秋霖の夜明けに抱かれ
枯ればむ草木のはざまから
花開く小さなコスモスたち
いのちに願われ咲いている。
2014.10.21. 井上嘉浩
「無心の愛」
秋深まる夜の獄
2014.10.14 井上嘉浩
「彼岸の花」
水鏡に咲く曼珠沙華
どんなに鮮やかな紅花でも
本当はそこには何も無い
人知れぬ池の辺に群生し
さすらう風に揺らめきながら。
2014.10.8 井上嘉浩
「群青」
都会の夜の砂漠を
遍く照らす待宵の月
人生の矛盾に隠された
光と闇が渦を巻く
静寂な群青のいのち。
2014.10.2 井上嘉浩
「瑠璃」
いのちの瞳は瑠璃浄土
森羅万象を映し出し
何ものにも染まらない
濁世にあって生死を出ずる
はてなき光の知恵鏡。
2014.9.18 井上嘉浩
「十五夜」
十五夜の牢獄に響く
精霊達のいのちの谺
姿なき無言の愛を奏でると
雲間の月が草露に輝き
かりそめの命を抱きしめる。
2014.9.8 井上嘉浩
「夜の長雨」
獄中に降る夜の長雨
流れつづける命の涙
尽きせぬ罪の悲しみに
もれなく寄り添うように
孤独の闇を爪弾く。
2014.9.1 井上嘉浩
「寂寞」
沈黙した底無しの闇
幽かに流れる秋の気配
ささやきはじめるコオロギ
寂寞たる胸の洞窟に
渦巻く光はいのちの願い。
2014.8.20 井上嘉浩
「稲妻」
どこからともなく訪れる
人生の稲妻に打ち砕かれ
何もかもが消え去ると
自ずとあふれるいのちの愛。
2014.8.12 井上嘉浩
「無心」
何処からともなく聞こえる
大地が唄う蝉時雨
命の限り無心にふるえ
尽きせぬ愛を祈りつづける。
2014.7.30 井上嘉浩
「悲痛」
異なる民族や宗教や国境
争いを繰り返すのは何故?
正義の名にかき立てられる憎しみ
悲痛にふるえるいのちの涙
骨にしみる犯した大罪。
2014.7.23 井上嘉浩
「七夕」
七夕に降る夜の雨だれ
ほのかな香りは紫陽花かな
隔てられた闇のしじまに
目に見えぬ星々が輝き
いのちの願いに合掌する。
「悲愁」
青空に満ちる姿なき光のように
やさしさは目に見えぬとも
寄り添い合う温もりとなり
命といのちを不思議につなぐ
濁世から浄土への虹の橋。
自業自得に閉じ込められた
コンクリートと鉄の扉の独居房
かすかに聞こえる鳥達のさえずり
いのちを奏でる健気な歌声に
悲愁がとりとめなくあふれだす。
あぁ 命を奪う罪の恐ろしさ
生きておられたはずの人生が
愛し合われていたはずの日常が
時を重ねるほどに大きく深く
悲しみと痛みを伴い押し寄せる。
多くの方々のやさしさに触れては
人の心を見失った振る舞いを
一つ一つ気付かされて後悔し
何ていうことをしてしまったんだと
出口のない闇で一人つぶやく。
間違った人と教えを信じてしまい
時にはこれでいいのかと思いつつ
周りに流され偽善しつづけ
とりかえしのつかない大罪を
私は犯してしまっていました。
やさしさは広いほど愛に満ち
悲しみは深いほど痛みを知る
涙の滴はもれなく人生を映し出し
静かにふるえる命を抱きしめる
はてなき光の願いのままに。
2014年6月19日 井上嘉浩
「白詰草」
梅雨の夜に滴る音
命を育くむ恵みの雨
もれなく大地を慈しむ。
雲間の朝日を浴びて
凛と花咲く白詰草。
2014年6月25日 井上嘉浩
「さえずり」
梅雨の晴れ間の昼下がり
土の香りがほのかにただよい
のどかにさえずる小鳥たち
謙虚で健気な美しさに
響き渡る悲愁の詩。
2014年6月19日 井上嘉浩
「水韻」
梅の雨が降りそそぐ
名も無き池の波紋
淀み濁る水面に
次々と消えつつ生まれ
透明な水韻を奏でる。
2014年6月6日 井上嘉浩
「柳影」
柳糸にゆらぐ影模様
ながされてもながれない、
悲しみ渦まく生死の中
流れるはてなき光のままに
姿なき愛を語るかな。
2014年5月18日 井上嘉浩
「矛盾」
どうしようもない矛盾の中
いのちの声が聞こえるまで
じっと孤独に耐えればいい
闇のしじまにあふれるもの
きっとそれは愛だから。
2014年5月8日 井上嘉浩
「雲雀」
透き通る青空が獄中に
雲雀がさえずり翔けていく
心が交わるその一瞬
姿を消して虹に揺らめく
限りない命の響き合い。
2014年4月30日 井上嘉浩
「朧月夜」
朧(おぼろ)な夜の空の海
潮騒に舞う月の幼子
生死の境を揺らめかせ
あらゆるものをそのままに
本然のいのちへいざなう。
2014年4月23日 井上嘉浩
「菜の花」
春光に戯れうたう菜の花
厳しい冬の孤独に耐え
息吹くいのちの万華鏡。
大地のような黄色い花びら
平等に悲しみを慈しむ。
2014年4月8日 井上嘉浩
「春のポリフォニー」
息吹く草木のこもれび
微笑む光と風のポリフォニー
名も無き精霊達が舞い踊る。
人目に隠れたやさしさに
気づかぬうちに癒されて。
2014年4月2日 井上嘉浩
「春嵐」
牢獄に吹き荒れる春嵐
ひときはしみる罪の痛み。
わずかに差し込む春のひざし
温もりのさりげないやさしさに
尽きせぬ悲しみをかみしめる。
2014年3月25日 井上嘉浩
「本有」
願いのままに空は透き通り
大地はもれなく支えつづけ
春に先立ち咲き誇る白梅。
生死に彷徨い打ちのめされ
全てを失いはじめて気付く
人に託されたいのちの願い。
2014年3月10日 井上嘉浩
「雪の下」
雲間の月光に貫かれ
雪の下の炎のように
残雪がほのかに瞬く。
闇にゆらめく白蓮華
いのちに秘められた愛。
2014年2月25日 井上嘉浩
「雪の声」
風雪渦まく夜の獄
数々の罪が降り積もり
氷雪に閉ざされていく
寒さにじっと耐えながら
悲しみを一人で抱きしめる。
2014年2月9日 井上嘉浩
「氷面鏡」(ひもかがみ)
氷面鏡に映し出される
底知れぬ罪の悲しみ。
何一つ償いようのない
無力さに打ちひしがれ
絶望に瞬くいのちの願い。
2014年1月20日 井上嘉浩
(正月の句)
「福寿草 雪をかきわけ 咲くいのち」
「除夜の鐘」
闇にしみ入る除夜の鐘
姿なき光の波紋を広げ
獄中にさえかすかに響く。
罪人をゆさぶりながら
喜怒哀楽にふるえるままに
浄土へいざなう不思議な音色。
2014年1月1日 嘉浩
「聖夜」
静まり返る聖夜の獄中
罪人は闇にうずくまる
月影の微笑みに顔を上げると
かすかに聞こえるジングルベル
もれなく慈しむ存在のの詩
たった一人のクリスマス。
2013年12月17日 嘉浩
「わびしさ」
寒さがつのる冬の夜
寄り添われるわびしさに
不思議と心が静まりゆく
何一つ飾る必要もなく
ありのまま身守られている
確かな信頼がそこにある。
2013年12月4日 嘉浩
「夜鴉」
月渡る晩秋の獄
物寂しげに叫ぶ夜鴉(鴉…ア からす)
お前も一人かとささやく
月影に揺らめく命
鳴声は哀愁に谺する(谺…カ 谷間の広い様子)
2013年11月24日 嘉浩
「まっさら」
紅葉散る夕暮れに響く
今、生きる鳥達の歌
まっさらなさえずりは
無為自然の心に瞬く
尽きせぬ悲の祈り。
2013年11月15日 嘉浩
「無言(しじま)」
秋の音色は時雨に交じり
跡形も無く消えていき
木枯らししみる夜の獄
夜明けの無言に風はやみ
命の鼓動は姿無き愛のよう。
2013年11月6日 嘉浩
「故郷」
晩秋のたんぼのあぜ道
愛犬太郎とのんびり散歩
茜空を白サギが翔る
故郷はつらくともなつかしく
罪の重さが身にこたえる。
2013年10月23日 嘉浩
「罪人」
獄中の小さな窓に広がる秋空
透き通る色なき風が渦をまく
かすかに聞こえるささやき声
誰に語りかけるわけでもなく
生死の悲しみをもれなく摂取する
限りない愛の尽きせぬ祈り。
面会ごとに少しずつ老いていく
父母の笑顔と姿を見るにつれ
迷惑ばかりかけ助けられない
私はどうしようもない親不孝者
なすすべもない自分の無力さ
犯した罪の重さに砕けるばかり。
長らく人と会って話をすることもなく
底知れぬ孤独に沈むにつれ
闇の奥底からかすかな愛があふれだす
生きとし生けるものを見守りつづける
限りないいのちの摂理に気付く程
犯した罪の恐ろしさが骨に染みる。
支援して下さる方々の温情に
かたじけなくありがたく
いのちの温もりに触れる度に
多くの方々のかけがえのない人生を
奪い傷付け壊してしまった
犯した罪の痛みに引き裂かれる。
何故このような大罪を犯したんだ
自問しては自らの愚かさをかみしめ
妄信の誤ちに後から悔んでも
過去には戻れず取り返せない
厳粛な罪の事実を前にして
絶壁に一人立ち尽くす罪人。
2013年10月21日 嘉浩
「かよわくても」
秋霜になすすべなく身をさらし
いのちふるわす金鐘児(きんしょうじ)
闇に消えゆくか弱い声でも
にじみあふれる勇気と愛
生きとし生ける者たちへ
いのちの願いを語り継ぐ。
注)金鐘児(きんしょうじ)は、鈴虫の季語
2013年10月8日 嘉浩
「曼珠沙華」
十六夜の光を浴びて
穢土に咲くマンジュシャゲ
幽玄の舞いのように
生死の悲しみに寄り添い
命をいやす不思議な花。
2013年9月24日 嘉浩
「海鳴り」
嵐の如く吹きつける風雨
牢獄にこだまする海鳴り
罪をめぐる底無しの悲しみ
はかない命である程に
愛は研ぎ澄まされていく
未来へ願いを届けるために。
2013年9月16日 嘉浩
「哀愁」
闇の帳に包まれし獄中
哀愁の弦を爪弾くように
罪人にささやくこおろぎの詩
生きる悲しみは尽きぬとも
無限の愛の旋律にふるえたい
きっとそれだけが真実だから。
2013年9月5日 嘉浩
「正直」
孤独がしみる晩夏の夜
己の虚しさ寂しさを嘆くより
どこまでも罪の痛みを受け止めて
いのちの願いに正直にありたい
尽き果てるふるえる愛のように
2013年8月21日 井上嘉浩
「蝉心」
雷鳴とどろく真夏の夜
暴雨が罪人を打つほどに
何故か心が静まりゆく
雨上がる獄中の闇のしじまに
ふるえる愛の詩は蝉時雨
はかなく せつなく 美しい
2013年8月7日 井上嘉浩
「波音」
満天の星々が瞬く波影
闇の海辺を奏でる波音
誰に聞かせることもなく
無限のいのちが口ずさむ
心ふるえる生死のうた
2013年7月24日 井上 嘉浩
「星屑の涙」
清明な夜空に瞬く七夕の星々
荘厳されるいのちの願い
はてなき光の銀河を渡り
出逢う不思議さを知る程に
罪の痛みとせつなさは
尽きることなく溢れだす。
2013年7月17日 井上 嘉浩
「燕子花」
池のほとりの燕子花
紫花は気高い心
知恵の剣のような葉に守られ
どろ沼の中で命を育む
未来へ願いをつなぐために
2013年7月1日 井上嘉浩
「梅雨の虹」
梅雨の雲間から獄中に差し込む光
鳥たちのさえずりとシンクロする美しさ
あさましさにおおわれる罪人さえ
いのちの声にはふるえる愛を隠せず
空にかかる虹に願いを託す
2013年6月25日 井上嘉浩
「梅雨の香り」
夜の獄中に深々と滴る雨
かすかに漂う土と花の香り
梅雨に打たれる草木のささやき
雨が降る程に秘めやかに芳しく
伝え合ういのちのメッセージ
雨の香りにふるえる心の切なさよ。
2013年6月11日 井上嘉浩
「若葉の声」
光風に揺れる葉桜の梢
無邪気な若葉きらきら輝く
慈しみに荘厳された大地の詩
儚くとも美しい世界に己を開く程
いのちにしみる犯した罪の残酷さ
2013年5月14日 井上嘉浩
「忘れな草」
道端の隅っこで健気に花咲く
青色の小花に飾られた忘れな草
疲れ果ててうずくまると
不思議と目に留まり微笑む。
絶望に打ちのめされようとも
誰もがどこかで見守られている。
2013年5月1日 井上嘉浩
「響き合い」
激しい風雨が牢獄を打ち
真夜中の罪人の孤独をかき立てる
やがて雨音は落ち着いたリズムを奏で
わびしさとせつなさを静かに唄う
夜明けの大地に鳥達はさえずり
響き合ういのちのメロディーのよう
悲しみも痛みもふるえるいのち。
2013年4月18日 井上嘉浩
「夜桜」
春愁にたたずむ夜桜
月影が万物を貫くと
ひらひらり花びら舞い踊り
千手観音の御手のように
いのちの願い叶えるため
悲の大海へそっと旅立つ。
2013年4月2日 井上嘉浩
「砂粒の涙」
桂川に浮かぶ小さな中州
月彩が残雪を淡く照らし
川波をゆらりと撫でるように
光風がこぼれる砂粒に瞬く。
虚無の闇にしみ入るはてなき光
正義という偽りの光にとらわれ
犯した罪の痛みをまざまざと
涙のしずくに映し出す。
2013年3月5日 井上嘉浩
「氷柱の花」
夜の牢獄に降り積るぼたん雪
ガタガタ震える寒さがつのるほど
生きているからこそと痛感され
数々の罪の恐ろしさが身にしみる。
やがて溶けた雪は氷柱として垂れ下がり
朝日が差し込む一瞬 絶妙に煌めく
身を捨ててこそ咲く花のように。
2013年2月14日 井上嘉浩
「荘厳」
牢獄のすきまから見上げる冬晴れ
青く澄み渡る宙に戯れる黒カラス
キラリ輝くのは空に満ちる光かな。
いのちが織り成す涙が世界にあふれ
尽きぬからこそはてなき願に荘厳され
争いがなくなり平和でありますように
罪の痛みをかみしめポロリと涙がこぼれます。
2013年1月29日 井上嘉浩
「福寿草」
雪にうずもれたいのちの大地
白銀の浄土に輝く朝日影
かすかに溶けた雪のすきまに
健気に福寿草が咲いている。
氷壁に閉ざされた悲しみにも
はてなきいのちが瞬くように。
2013年1月7日 井上嘉浩
「クリスマス」
ひときわ静かな獄中のクリスマス
無邪気な頃の淡い思い出が浮かんでは
犯した罪の重さに押しつぶされる。
見上げる聖夜にまばたく星々。
今、遙かな時空を旅して
いのちの瞳にもれなく届けられる。
かすかに聞こえる慈しみの鈴の音。
2012年12月25日 井上嘉浩
「十三夜」
罪と孤独にさいなまれ
気が付くと午前3時の月あかり
静まり返った獄中に訪れる
なんておごそかな十三夜
もれなく平等に光を注ぎ
救われぬ姿のまま慈しむ。
2012年12月4日 井上嘉浩
「孤独」
深秋の夕影にあふれるやさしさ
静かな夜を迎え入れ星々が瞬く
闇の霧中で孤独が深まるほど
何かがそっと見守る視線を感じます
どこまでも厳しく罪に寄り添うように。
2012年11月12日 井上嘉浩
「秋雨」
獄中に降る真夜中の冷たい秋雨
滴るしずくは罪をめぐるいのちの涙
命を奪い苦しめ傷付け今も苦しめる
犯した罪の数々がうずまくようで
罪人を飲み込み底無しへ沈めていく。
闇にあふれ出てくるおのれの姿
他者より優れた者になろうと思い上がり
修行すればするほど人の心を見失い
真理だ救済だと声を張り上げ
多くの人々を邪道へと導きました。
大義の傲慢さにとらわれていき
社会に生きる人々の営みを知ることなく
真理を知らない無意味な生活だと見下し
救いのためなら犠牲もしかたがないと妄信し
他者のかけがえのない命を奪いました。
悲しみの涙の意味を知ることなく
愛する喜びを共に分かち合うこともなく
自分達は絶対正しいと自己陶酔する
こんなにも愚かな私が大罪を犯したのです
余りにも申し訳なくてたまりません。
夜明け前ふと気が付くと雨があがり
日の出と共に草木の滴に光が宿る
悲しみの奥底に愛がやさしく瞬くように
見上げる空の青さが心に染み渡り
ただただ命の尊厳に頭が下がります。
2012年10月19日 井上嘉浩
「紅葉」
秋の山では誰に知られることもなく
風に舞う紅葉がそっと大地へ往生し
やがて新たな命の糧となる
いのちのつながりに身を任せ
罪をかみしめ枯れ果てなさいと
落葉は無言のままささやくようです。
2012年10月17日 井上嘉浩
「彼岸花」
名も無き野に咲く彼岸花
青空に映える紅色の花びら
いのちをつなぐ慈しみを語る
彼岸花よ 悲しみをいやして下さい
断たれた絆をつなぎ合わせ
涙の滴に花が咲きますように。
2012年9月24日 井上嘉浩
「無心の愛」
コオロギの鳴き声が獄中にこだまする
微妙な音色に込められた一声一声
儚くとも切ない程に美しい
無心の愛にふるえるいのち
リンリンリーン リン リン
闇のしじまに花咲くように
生きる悲しみは尽きることはなくとも
誰もがそっと立ちあがれますように。
2012年9月10日 井上嘉浩
「蝉時雨」
夏の夕暮れを奏でる蝉時雨
無心にふるえるいのちのメロディー
はかなくとも激しい愛の詩
蝉の声にそっと心を通わせば
無限のいのちのつながりを断ち切った
罪の痛みがズキズキ押し寄せる
蝉よ蝉よ 許しておくれ
いのちの悲しみをいやして下さい。
2012年8月21日 井上嘉浩
「いのちの祈り」
夜空に咲く花火の光輪
獄中の窓にもかすかに映る
ふるさとの夏が思い出される
犯した罪のいたましさ。
出口のない闇に沈むほど
何かがいのちを身守りつづける
じっと静かにどこまでも
罪の悲しみを照らし出しながら。
2012年8月8日 井上嘉浩
「蛙の念仏」
遠く離れたふるさとの田んぼでは
田植えがはじまり 蛙が大合唱をはじめると
不思議とよく雨が降りました
ケロケロと雨ふれふれと呼びかけているようで
大空と小さな蛙と雨の仲間になりたくなりました
青年になると蛙の鳴き声はただやかましく
小さな生き物たちの声に心を閉ざした私は
希望の見えない社会に失望し生きる意味を
受験勉強の解答のようにオウム真理教という宗教に求めてしまい
ハルマゲドンからの救済の大義のとりことなりました
考えるな それはエゴで煩悩で救いはない
空っぽになって言われたことをやりつづけろ
出家した私はこの教えの生活にはまり込み
闇路を走りつづけては自分の足音すら恐くなり
偽善と大義の陶酔の中で目前のワークに没入しました
牢獄で少しずつ自分を取り戻しはじめると
見渡すかぎり他者の命を奪い苦しめた罪の海
犯した罪をどれほど恐れ苦しみもだいても
被害者の方々の痛みや苦しみをいやすことはできず
どうすることもできない無力さに打ちのめされました
リンリンリーンと鈴虫が秋になると鳴きはじめ
愚かな私の心にもいのちの声がしみてきます
一雨ごとに闇から聞こえる歌も小さくなり
自然の掟の中で消えゆく命のわびしさに
ただじっとうずくまりポロリと涙がこぼれます
父母と高校の恩師の温情のご縁により
生きて罪を償うために多くの方々に手を差し伸べていただき
二度とこのような宗教の名のもとで犯罪が起きないように
教団の全ての罪を自分の罪として償う覚悟をもって
被害者の方々の痛みをかみしめて生かしてもらっております
やかましく鳴いておる田んぼの蛙は何だと聞く子に
彼こそは法蔵比丘よと答えた母の話を学び驚愕しました
ふるさとの蛙が南無阿弥陀仏と呼びかけてきます
あぁなんという罪業の身 私にはこの道をたどることでしか
いのちの大地に両手をついて南無する蛙に出遇えませんでした
かたじけない本願は罪人をいやすものではなく
罪を照らし救いようのない姿を教えて下さいます
それでも罪のどろ沼の中で蛙はずっと鳴きつづけ
つながりあういのちの痛みと愛を知れと呼びかけて
救われぬわが身にも念仏の慈雨が降り注ぎます
2011年1月13日 井上嘉浩
獄中の月影
澄みきった凍て付く夜空に皓皓と輝く寒月
獄中の小さな窓のすきまにぽっかり昇る
淡い光の海の金波をくまなく広げるように
闇にしみ渡る姿なき月光の限りない温もりは
万物を何一つ身捨てずに包み込んでいる
房内の壁にほのかに浮かぶ月影の我が身
救われようのない大罪がくっきり映し出される。
かけがえのない家族や夫婦や親子や友人と
愛し合い支え合い助け合い励まし合って
生きてこられた人生とこれからの人生を
私はことごとくに奪ってしまったのです
何という恐ろしくとりかえしのつかないことを
しかも救済すると信じてやってしまったのだと
たとえようのない苦悶の波におそわれます。
絶望の中でどうしようもなく死を思うほど
心臓の鼓動がドッキンドッキンと高まり
いのちに生きよと呼び止められているようで
どうすればいいのだと天を仰ぐばかりです
犯した大罪をどれほど苦しみもだえても
苦しんでいるものまねにすぎないと思い知らされ
ただただとりとめなく悲しみがあふれます。
獄舎にピーンと張り詰める強制された静けさ
抑えきれない罪の呻きが救われぬまま渦まき
罪人はもがけばもがくほど罪の海に沈んでいく
誰もが生まれた時は祝福されていたであろうに
巡り合わせと選択の中で罪を犯していく
人間の弱さと愚かさがせつなくてたまらない
罪人の一人一人の悲しげな目はみんな同じです。
夕影が空と大地を西方浄土に染めはじめると
獄中のすきまからもれなく光が差し込み
差別なく花も机も我が身も照らし出す
あぁどれほど罪の闇の中で彷徨い続けようと
はてなき光はきっといつも届けられている
救いなき姿のままでこそ摂取する無限の光よ
償いようのない罪を償う道を照らして下さい。
2012年1月5日 井上嘉浩